第2章
今年度の研究の方向性を探る
【R:リサーチ】




1 これまでの研究の過程と今年度の研究の方向性

 文部科学省研究開発学校の指定を受けた平成22年度、本校区の研究は、子どもたちの実態を把握し、課題を解決したいという思いから始まった。「人間関係をうまく築けない」「情報に翻弄されている」「最後までやり抜くことが苦手」…。学校で学んだことと毎日の生活との間に関係性が見えず、「勉強したって意味ないやん」「なんで勉強しなあかんの」という思いが、子どもたちの言葉や姿にあらわれていた。そんな子どもたちの実態から、子どもたちと「学校での学び」の間に「内容」「学び方」「気持ち」のずれが生じているのではと考え、このような状況を「学びの空洞化」と名付けた。校区の研究は、この学びの空洞を埋め、これから先のどんな環境の中でも、周りとつながり自分の力を発揮して、力強く進んでいく力を育みたいという思いからスタートした。


 学びの空洞を埋めるにはどうすればいいのか。研究を進める中で見つけたキーワードが社会参画力である。そして、それを育むために開発したのが、新領域「いまとみらい科」である。「いまとみらい科」の実践で大切にしてきたことは、以下の3点である。

 1つ目に『リアリティの追求』である。「いまとみらい科」では、子どもたちにとって身近な社会である家庭や学校、自分たちの住む地域・社会の中から、課題を見つけ出し、自分たちができることを考えて働きかけることを大切にした。学校での学びを実生活と結び、リアリティのある社会参画の場を保障した。子どもたちが課題と自分の立ち位置をとらえて活動を続けていくことで、学びを自分ごととし、そこで得た学びをさまざまな場面で活かしていく。学びの場にリアリティがあることで、「勉強したことが役立った」「今度はこんなこともしてみたい」という子どもたちの意欲につながった。

 2つ目は『S−RPDCA学習サイクル』とSの重視である。校区では、「いまとみらい科」の取り組みの中で学び方に注目し、『S−RPDCA学習サイクル』を開発した。中でも大切だと考えたのが【S=スタンディング】である。校区が考えるSとは、課題と自分との立ち位置を見つめることである。学習のはじめに、まずは課題と自分との関係を見つめることで、問題意識、課題解決への意欲、学習意欲をほりおこす。学びが進んでいく中でも常にSに立ち返り、「なぜこの活動なのか」「なんのためにそれをするのか」を確認し、自分ごとととらえて取り組む。学びや社会の課題が、自分とつながっていることに気づくことで、子どもたちは意欲を失うことなく学ぶことができた。そして、活動や体験をして終わるのではなく、【C=チェック】で成果と課題を含めて学びをふり返り、【A=アクション】で今回の学びをどう活かしていくことができるかを考えることで、次の学習への意欲にもつながった。












 3つ目は『ソロ−コミ−ソロ』の定着である。『ソロ−コミ−ソロ』(ソロT−コミュニケーション−ソロUの略)は、長年校区が大切にしてきた、自分と仲間の力を使って課題を解決していく学び方である。学校で学ぶことの意義は、一人では気づかなかった多様な考えを知ることにある。友だちの考えを知ることで、自分の考えが広がり、深まり、そしてまた他の考えへとつながっていく。友だちに自分の意見を伝えたり、やり方を説明したりする中で、自分の考えがより良いものになっていくこともある。「いまとみらい科」の取り組みを校区一貫して進めてきたことで、『ソロ−コミ−ソロ』の学び方が定着し、子どもたちは自然に集団で学ぶことができるようになってきた。「一人で勉強しているんじゃない」という、みんなで学ぶことの価値を子どもたち自身が感じ取り、そのような学習環境の中での学びが意欲の向上につながった。

 そして、「いまとみらい科」の実践を支えた基盤となったのが、3校で9年間一貫して取り組む組織体制の確立であった。子どもたちの課題を解決するためには、小中9年間という限られた時間を有効に活用する必要がある。どの学校、どの学年、どのクラスでも、一貫した学習環境、学習スタイルの中で、社会参画力の育成という共通の目標を掲げて9年間学び続ける。このくり返しが、子どもたちの着実な力の積み上げとなった。

 こうした「いまとみらい科」の成果を、各教科にも広げていこうと一昨年度から取り組みを始めた。そして、教科の授業と「いまとみらい科」を両輪として社会参画力の育成をめざした。「いまとみらい科」については、生活科・総合的な学習の時間にその機能を引き継ぐことを意識し、大切な観点は残しつつ目の前の子どもの実態に応じて内容や取り組みを見つめ直していこうと考えた。

 昨年度は「主体的な学び」を育むことをめざし、授業づくりの柱を『解きたくなる問い』『学びの倉庫』『ソロ−コミ−ソロ』の3つに整理した。また、その実践の中で、生活科・総合的な学習の時間に実施している「いまとみらい」の授業改善に学びが活かされていった。

 「いまとみらい科」の実践の基盤となった小中一貫の組織体制は、教科の授業づくりを進めていく中でさらに深まっていった。小中の教職員が共に教科を軸に会議を進める「小中教科部会」がそのひとつである。実践を積み重ねていくことにより、3校の子どもたちや教職員が、連携して行事を進める、会議を開く、授業に向かうなどといったことが文化としてさらに深く根付いていった。

 そして今年度は、これまで課題として積み残してきた日々の授業改善を大きな目標とした。これまでの研究成果を活かして、日々の授業を変え、子どもたちに社会参画力を育むことをめざし、今年度の校区の研究はスタートした。



2 次期学習指導要領の方向性

 学習指導要領の改定に向け、平成27年8月20日に中央教育審議会教育課程企画特別部会より論点整理としてその枠組みが発表された。これから国がめざしていく教育の方向性と校区のめざしている子どもの姿を照らし合わせ、校区の研究との関連を整理する。

 論点整理の冒頭には、「2030年の社会と子供たちの未来」と題し、以下のように書かれている。

 グローバル化は我々の社会に多様性をもたらし、また、急速な技術革新は人間生活を質的にも変化させつつある。こうした社会変化の中で、教育のあり方も新たな事態に直面することは明らかである。

 このように変化する社会にあって、学校をその中に位置付け、新しい時代を生き抜く子どもたちにいかなる力を育み、学校教育はどのような準備をしなければならないかがこの後に記されている。

 注釈には、その将来の変化を予測することが困難な時代について、2つの例が示されている。1つは、少子高齢化である。2030年には65歳以上の割合が総人口の3分の1に達する一方、生産年齢人口は総人口の58%にまで減少すると見込まれていることが示されている。また、子どもたちが将来就くことになる職業のあり方について、技術革新等の影響により大きく変化することになるとの予測のもと、子どもたちの65%が今は存在していない職業に就き、今後10〜20年程度で半数近くの仕事が自動化される可能性が高いという予測を示している。

 子どもたちは、このような社会を生き抜いていくことになる。当然のことながら私たちが今目の前にしている子どもたちも例外ではない。校区では、このような社会を生き抜く力をつけていくために、子どもたちに「今の課題に向き合い、未来をよりよく生きる力を育む」ことをめざしている。あらためて、今一度この原点に立ち返る必要があることを感じる。

 続けて、新たな学校文化の形成について、以下のように続いている。


 予測できない未来に対応するためには、社会の変化に受け身で対処するのではなく、 主体的に向き合って関わり合い、その過程を通して、一人一人が自らの可能性を最大限に発揮し、よりよい社会と幸福な人生を自ら創り出していくことが重要である。

 この文章は、本校区が大切にしてきた【S=スタンディング】の考え方と重なる。校区では、課題を自分ごとととらえ、課題と自分との立ち位置を見つめることを大切にしてきた。それは、子どもたちにこれからの社会を幸せに生き抜いて欲しいとの強い願いからである。上記からも、校区が「いまとみらい科」を生み出し、そこからつながる現在の研究の方向性の確かさを確認することができる。

 そのためには、教育の場において、解き方があらかじめ定まった問題を効率的に解ける力を育むだけでは不十分である。社会の加速度的な変化の中でも、社会的・職業的に自立した人間として、伝統や文化に立脚し、高い志と意欲を持って、蓄積された知識を礎としながら、膨大な情報から何が重要かを主体的に判断し、自ら問いを立ててその解決を目指し、他者と協働しながら新たな価値を生み出していくことができるよう、そのために必要な資質・能力を身に付けることが重要である。

 ここでは、教育が育むべき力について言及されている。すなわち、これまでの教育のように解き方が決まった問題を解くだけではなく、自ら問いを立ててその解決をめざして新たな価値を生み出す資質・能力を育成することの重要性である。昨年度、校区ではめざす姿を「主体的に学ぶ姿」とし、育みたい力を「自ら問いを立てて解く力」とした。ここで述べられていることも、校区の育もうとしている力と重なっている。

次に、「新しい学習指導要領等が目指す姿」と続き、その中の「学習プロセス等の重要性を踏まえた検討」の項目で以下のように述べられている。

 学びを通じた子供たちの真の理解、深い理解を促すためには、主題に対する興味を喚起して学習への動機づけを行い、目の前の問題に対しては、これまでに獲得した知識や技能だけでは必ずしも十分ではないという問題意識を生じさせ、必要となる知識や技能を獲得し、さらに試行錯誤しながら問題の解決に向けた学習活動を行い、その上で自らの学習活動を振り返って次の学びにつなげるという、深い学習のプロセスが重要である。また、その過程で、対話を通じて他者の考え方を吟味し取り込み、自分の考え方の適用範囲を広げることを通じて、人間性を豊かなものへと育むことが極めて重要である。

 学習において子どもたちが「何をどのように学ぶのか」を検討する方向性の中で、上記のようにただ学ぶのではなく、より深い理解を促すための学習のプロセスが重要であるとされている。このプロセスは、校区の研究の方向性とも深く関連がある。校区のめざす授業づくりの3つの柱は、ここに書かれていることを授業の中で学習のプロセスとして実践していくことに他ならない。

 さらに、「人生を主体的に切り拓くための学び」の項目では以下のように書かれている。

 子供たちに社会や職業で必要となる資質・能力を育むためには、学校と社会との接続を意識し、一人一人の社会的・職業的自立に向けて必要な基盤となる能力や態度を育み、キャリア発達を促す「キャリア教育」の視点も重要である。学校教育に「外の風」、すなわち、変化する社会の動きを取り込み、世の中と結び付いた授業を通じて子供たちにこれからの人生を前向きに考えさせることが、主体的な学びの鍵となる。

  「いまとみらい科」の取り組みは、子どもたちと社会をつなぎ、社会参画力を育成することをめざしている。上記のキャリア教育の視点は、「いまとみらい科」と密接な関係があることは言うまでもない。「いまとみらい科」の取り組みを通じて、子どもたちは社会とつながり、社会に参画することで大きく成長することができた。今後も、これまで培ってきた社会とのつながりを大切にして子どもたちを育んでいきたい。

 ここで記載したものは、論点整理の一部を抜粋したものであるが、全体を通して校区の研究との深い関連を感じることができる。この論点整理は校区の研究をあらためて価値づけるものでもあり、さらにここから学びながら、今年度も研究を進め、深めていきたい。



※ 「子ども」の表記について・・・本年度の研究のページでは全般を通して「子ども」としているが、論点整理の抜粋については原文のまま「子供」としている。他、文章の引用についても原文通りとしている。



 
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