第2章
授業改善の取組




第1節 研究仮説

いまとみらい科で学びの空洞(学び方・内容・気持ちの3つのずれ)を埋めようとしたのと同じように教科の授業でも学びの空洞をうめる授業づくりについて,研究の具体化を試みた。
学びの空洞を埋めるには,学習意欲を育み,主体的な学びを創造することが必要である。教科でも「参画」を取り入れ,教員主導の「教え込み授業」から脱却することで,それらがなし得ると考えた。

教科授業で学びの空洞を埋めるには
・学び方 社会参画力を育むSRPDCA学習サイクルを活かす
「R学びの倉庫(16頁)」=既存の知識や経験を活かす
・内容  学校の学びと実社会をつなぐリアリティの追求
        小中9年間の縦のつながりを意識する。
・気持ち S(単元への願いやリアリティある主発問などを通して教材と子どもをつなぐこと)へのこだわり
子ども自身の知りたい!説きたい!学びたい!を掘り起こす

上記のように,いまとみらい科の成果であるSRPDCA学習サイクルを活かして教科授業も学ぶことで学びの空洞を埋め,課題解決を図ることができるのではないかと考えた。



1 教科の学習サイクル〜教科でも学びの空洞を埋める〜

@なぜそうなるのか,解決すべき課題と子どもたちの関心を近づける導入の重要性(Sの大切さ)
A課題解決に向けて,教科と共通した学習サイクルで取り組むこと
B自分なりの考えをもって(ソロ),それをもとに友だちと協力しながら課題解決に取り組むとともに(コミュニケーション),何を学 んだか,それぞれが可視化(言語化)する(ソロ)学習形態とする
C学んだことと日常生活のつながり(リアリティ)を常に意識し,子どもたちが意欲を持って学習に取り組めるようにする
以上4点の授業改善の方向性のうち@Aについては,教科の学習サイクルを開
発することで課題解決を図ることができると考えた。
教科の授業改善を進めるひとつの拠りどころとなる授業の枠組みを開発する必要があった。この枠組みにさえ入れればいい授業ができるといった教材研究の幅を狭める枠組みではなく,「この授業で伝えたいことは何か」「この力をつけてほしいからこの資料で考えてほしい」「この教材にどう出会わせれば学習意欲は喚起されるのか」など授業改善を進める手立てとして,授業を創る枠組みを変える必要があると強く感じたからである。


SとRの大切さ


上の図はいまとみらい科の学習サイクル図である。いまとみらい科では「S」を常に意識して学習を進めるために中央に「S」を置いていた。教科においても「S」が大切であることに変わりはない。しかし,教科の授業をみたとき,この問いを解き明かしたいというわくわく感や学習意欲を掘り起こす出会い「S」にはまだまだ課題が大きかった。解決すべき問いと子どもたちの興味関心にはまだずれがあり,問いが自分事とは感じらていない実態があった(学びの空洞化)。そんな実態を解決するためには,興味関心がもてる導入について工夫していくことが求められた。校区ではそれを「S」と呼び,研究を進めることにした。
また,教科授業においては「R」も同じように常に意識したいと考え各教科学習サイクル図のようにイメージした。なぜなら校区の授業をみたとき,既存の知識を活用することに課題を感じたからである。学習課題を解決する際,本来なら前学年や前単元,前時に得た活用すべき知識がある。しかし,子どもたちの思考をみると既存の知識を活かしきれていない実態があった。


R「学びの倉庫」の問い直し
 校区では,それぞれの子どもが今までの学習で習得してきた「既存の知識」が「学びの倉庫」に入っているとイメージしてみることにした。ある課題解決をおこなおうとした際に活用できる「知」を,倉庫から出して使うイメージである。倉庫の中が整理できおらず,どこに何があるのかわからない状態では,必要なときに活用することはできず宝の持ち腐れになってしまう。また,せっかく学んだ新しい「知」をきちんと収納できなければ学びの倉庫の中身は豊かになっていかない。人には「学びの倉庫」があり,大きく豊かに「知」を増やし続ける。そして,一人ひとりの子どもが自分の「学びの倉庫」のよき使い手になってほしいと考えた。そのためには,発達段階に応じた「学びの倉庫」活用の手立てが必要である。

 これらのことを受け,教科の学習サイクルは次のように考えた。単元全体でもS-RPDCAを意識しながら,より日々の授業改善につなげるために,「1時間の授業スタンダード」としてS-RPDCAを活かせないか考えた。教科授業のスタンダードとして実践を進めているのが次のような考え方であり,教科の学習指導案フォームも4月から改善を続けている。

教科の学習サイクル
「S」出会う …解き明かしたくなる問い(主発問)との出会い
「R」広げる …常に学びの倉庫(めあて達成のために活用すべき既習事項)を活用)
「P」立てる …自分で主張を立てる(ソロT)
「D」高め合う…仲間の考え方に出会い高め合う(コミュニケーション)
「CA」実る …学びを言語化し新しく自分の学びの倉庫へ(ソロU)



2 学習形態(ソロタイムT-コミュニケーションタイム-ソロタイムU)の問い直し

Bについては,学習サイクルに整合する形で進めてきた「ソロタイムT-コミュニケーションタイム-ソロタイムU」という校区が長年取り入れてきた学習形態の充実を図ることで課題解決を進めることができると考えた。この学習形態は,自分とみんなの力を使って問題解決をしていくという解き方,つまり子どもたちが自分の「学ぶ力」そのものを育成する形態でもある。また,学年や教科を越えて取り入れることができる。今回の研究開発において特にいまとみらい科の学習において多く実践を進めてきたが,それぞれの教科授業でどのようにすればこの学習形態をもっと活かしていけるのか,今一度問い直しながら実践を進めた。



ソロT
教科の授業では,より自分の力で問題解決をしていくことが求められる。そのためにはまず,「自分でしっかりと考える時間=ソロT」を設定することの重要性をあげたい。主発問に対して自分はどう考えるのか,どう関係してきたのか主張を立てる時間を設ける。その際,大きな手立てとなるのが既存の知識の活用である。後で詳しく述べる「学びの倉庫」の積極的な活用を図る。「ソロT」が不十分な状態で,仲間の意見に出会ったとしても学びは深まらない。答えそのものではなく,こういうふうに考えたら答えが出せると考えた,この知識を使ってここまでは考えたけれどその先で悩んでいるといった思考の過程を大切にするソロTを経験させる。


コミュニケーション
自分一人の学びには限界がある。仲間はどんな考え方で解き明かそうとしているのか,どんな方法をもち合わせているのか,どんな答えを導き出そうとしているのか,共に学ぶ仲間の学びに出会う時間を設定する。「コミュニケーション」を設定することで一人ひとりの学びが広がり深まる。自分の力を活かしながら,仲間と協力して問題を解決していくよさも感じてほしい。実際の社会は多様で複雑である。授業でも自分とは違う価値観や方法に出会い,論議したり相談したり,すり合わせたり,折り合いをつけたりする過程を経ることで,それぞれのソロTを高め合う時間とする。
ただし,質の高い「コミュニケーション」とするには,信頼関係を基盤とした学級集団づくりが欠かせない。「違うことはすばらしい」「『わからない』と安心して言える」「間違っても大丈夫」と子どもたちが感じられる安心安全な関係があってこそ,豊かな「コミュニケーション」となり,学びでつながる集団へ発展していく。


ソロU
授業は活動あって学びなしであってはならない。ソロUは,ソロT-コミュニケーションを経て高まった学びが自分に返る時間である。どんな学びがあったのか,どんな新発見があったのか,ソロTとどんな変容があったのか,何が付け加わったのか,新たにどんな疑問がわいてきたのか等書いたり話したりすることを通して言語化,可視化し,一人ひとりの学びに返すのである。ソロTより豊かに肥え太った新しい学びが子どもたち一人ひとりに実り,学びの倉庫に入るのである。
今年度の研究の中で本校区の課題が一番現れた部分でもある。何のための発問なのか,コミュニケーションなのか「出口」が明確でない授業になってはいないか?という反省を踏まえたとき,ソロUで到達してほしい「めざす子どもの姿」を明確にして,授業を組み立てる必要がある。




3 リアリティの追求
Cについては,いまとみらい科でこだわってきた「リアリティの追求」を教科でもめざすことで課題解決を図ることができると考えた。いまとみらい科では,家庭や地域の協力を得ながら,社会参画の場の保障を大切にしてきた。「家庭・学校・まちの温度計をあげよう」という単元名に象徴されるように,愛着のある身の回りの社会をよりよいものとしていくにはどうしたらよいか考え,子どもたちなりに参画した。自分たちの行動に対して,地域の方から「ありがとう」「うれしいです」「もっと力を貸してくれませんか」等の声を直接いただくことも多かった。自分たちが学習したことは社会を元気にしている,人の役に立っているということを感じることができた。そこには学びが社会とつながっている,自分たちの学びが社会に役立っているという実感=リアリティがあった。
このリアリティは「学びの空洞」を埋めることにつながる。教科にも同じことが言えるはずである。「なぜ学ぶのか?」の答えもここにある。教科で学んだことは日常生活につながっている。社会で活かされている。自分が生きている日常生活や実社会と学んだことがつながっていると思えたとき,子どもにとってその学びは「リアル」になる。もっと学びたくなる。教科の授業でのリアリティをもっと追求していくことにした。


 
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