第1章
研究の継承と発展    B




3)いまとみらい科の開発〜学校教育と実社会をつなぐ学びに〜

学びの空洞を埋め課題解決を図るためには,特別活動と道徳の重要性と,総合的な学習の時間の学び方の改善の必要性を感じ,現行の学習指導要領の枠を越えて,新しい学びの時間の創設が必要だと考えいまとみらい科を開発した。
いまとみらい科は,既存の教科,総合的な学習の時間,道徳,特別活動,これら全てと関連するものである。特に,総合的な学習の時間の学び方,道徳と特別活動の内容との関連が強く,それらの一部を融合させる形で開発した。
子どもたちの課題を克服するためにつけたい力を考えたとき,鍵としたのが「社会参画力」の育成である。子どもたちにとって,身近な社会である家庭や学校,自分の住む地域・社会から,課題を見つけ出し,自分たちができることを考え働きかけることによって「社会参画力」を育む。解決したい課題に対し,実際にアクションを起こし,成功体験,時には失敗を経験することで,子どもたちの達成感,学ぶ意欲,生きる意欲を掘り起こし,長年の願いであった学力向上・進路保障につなげられると考えた。
ともすれば,「体験あって学びなし」にしてしまいがちであった総合的な学習の時間とキャリア教育の視点,そして,年間35時間という枠では体系的にじっくり取り組みにくい「特別活動」の「学校づくりへの参画」という要素を関連させ,「社会参画力の育成」というキーワードで9年間,そして校区3校を貫くいまとみらい科が必要であると研究開発を方向づけて取り組んできた。
そして,現行の教育課程より1・2年生の生活科の一部と3年生から9年生の総合的な学習の時間を「いまとみらい科」とした。教科の枠を動かさず,各教科を横断させることで,総合的な学習の時間の学びに特別活動とキャリア教育の視点を生かし,現行の学習指導要領では,なし得なかった「実社会」と深く関連する学びをめざした。






社会参画力ステップ表


総合的な学習の時間では,現代的な幅広い課題を扱い,それらについて探求していくことをねらいとしている。それに対して,「いまとみらい科」では,@「家庭」,A特別活動と関連させた「学校」,Bキャリア教育と関連させた「地域・社会」と,学ぶ領域を大きく3本の柱に限定し,教育課程開発を行った。学習を「家庭」「学校」「地域・社会」にしぼることで,子どもたちにとってリアリティある社会参画力の育成が可能となると考えた。
 「いまとみらい科」では,子どもたちが生きる社会を,「家庭」「学校」「地域・社会」という広がりでとらえ,その3つのカテゴリーで単元を開発した。




*いまとみらい科カテゴリー
 


「家庭」は,「いまとみらい科」のベースになるものとして1・2年生で単元を配置し,「学校」は,よりよい学校づくりに参画する「学校温度計をあげようシリーズ」を全学年に貫いた。また,「地域・社会」は,よりよい地域づくりに参画する「まちの温度計をあげようシリーズ」「みらいのまちを考えようシリーズ」を3年生から9年生まで貫いた。学年が上がるごとに,向き合う課題解決の範囲を広げ,深められるようにした。
                              

 「いまとみらい科」を学びのエンジンとして,校区の課題解決に取り組むことは,今の教育に求められている「生き抜く力」(「第2期教育振興基本計画」)を獲得する過程を明らかにすることであるととらえて研究を進めてきた。


*「いまとみらい科」がめざしたもの
「いまとみらい科」では,主に次の5点をめざした。
@「学校の学び」を「実社会」と結び,リアリティあるものとすること
A子どもたち自身による「学び」への「参画」をすすめること
BS‐RPDCA学習サイクルを通して学び方・生き方を習得すること
C上記3点を校区9年間で一貫して取り組むことで充実させること
D教職員が社会参画力を身につけることで,意識改革・授業改善をすすめること


@「学校の学び」を「実社会」と結び,リアリティあるものとすること
「いまとみらい科」では,扱う課題を「学校」と「地域・社会」に限定することで,子どもたちにリアリティある社会参画の場を保障した。社会参画力を構成する要素として「矛盾や困難を乗り越え,じりつして生きていく力」「人や社会に働きかける力」を設定しているが,これらは道徳,特別活動と関連が深い。カテゴリー「学校」の単元を特別活動と関連させることで,学校を社会とみなし,そこに主体的に働きかける。つまり自分たちが生活する場である学校から課題をとらえ,自分との関係を問いながらできることを考え,実行するという「参画の場」を保障することで社会参画力を育む。また,カテゴリー「地域・社会」についても,身近な「まち(校区や高槻市)」という社会から,課題をとらえ,実際に働きかける。地域との協働により,学校だけではなし得ない「実社会」への「参画の場」を保障する。各教科の学習で習得した知識・技能,思考力・判断力・表現力を活用しながら,「いまとみらい科」の学習を通して社会に参画することにより,学校の学びをリアリティあるものとし,実社会とつなげた。そして,道徳の時間に,「いまとみらい科」の学習を通して体験したことの道徳的価値を学ぶことで,より「実社会」と深く関連した教育課程を編成した。

A子どもたち自身による「学び」への「参画」をすすめること
 学習指導要領では,子ども自身による主体的な学びの重要性がうたわれているにも関わらず,受験等の現実を前に,学校では,知識の「教え込み型」の授業が見受けられる。アメリカの「サービスラーニング」によると,「子どもが実際に記憶する程度と学習者の活動」との関係において,「聞く」だけでは,20%の記憶にとどまり,「言ったこと経験したこと」つまり,実際の経験をすることで,90%の記憶となるとしている。いまとみらい科では,子どもたち自身の主体的な学び(S-RPDCA学習サイクル)を重要視した。「学び」に子どもたちが責任をもって参画することで,リアリティある学びが可能となり,「じりつして生きる力」を育むことをめざした。これは,「いまとみらい科」に限られたことではなく,各教科の授業,行事等学校生活全般にわたって参画を意識して取り組むことめざした。

BS‐RPDCA学習サイクルを通して学び方・生き方を習得すること
校区の子どもたちの課題として,困難や初めて出会うことをどう乗り越えてよいのかわからず,投げ出してしまうという姿があった。それらを解決するには,「学び方」「生き方」自体を習得する学習方法が必要であると考え,「S‐RPDCA学習サイクル」を開発した。 1年生から9年生まで,共通のS-RPDCA学習サイクルで,成功体験や困難に向き合う経験をくり返すことによって,子どもたちが新しい課題や,困難に出会ったときに,投げ出さずに乗り越えていく力を育むことをめざした。それは,さまざまな課題に対して自分で解決方法を考えながら,じりつ(自律・自立)して生きていく力であり,「学び方」「生き方」の習得であるととらえている。




<S…スタンディング> 課題(テーマ)と自分との関係(立ち位置)を見つめる
子どもを傍観者にしないために,必ず「S」の時間をもつ。課題と自分との関係を見つめることで,問題意識,課題解決の意欲,学習意欲をほりおこす。学習を進める中で,常に「S」を問い,「S」を深めることを意識する。
<R…リサーチ> 調べ,考えを広げる
多様な情報からリサーチすることで視野を広げ,自分のできそうなことを考えて解決方法を見つける。(例 昔は? 他の学校は? 他の市は? 他の国は?)
<P…プラン> 計画する
リサーチしたことを検討し,課題解決方法を具体化するために計画を立てる。
<D…ドゥ> 活動する
計画した社会参画・課題解決の方法を実践する。
<C…チェック> ふり返る
取り組んだ結果はどうであったのか,何がうまくいき,何がうまくいかなかったのか,それはなぜなのか学習(学び方)をふり返る。
<A…アクション> 活かす
学習サイクルを通して学んだことを活かして,自分を取り巻く社会をよりよくするためにできることを考え,自分の生き方に返し,次の行動意欲につなげる。

C上記3点を校区・9年間で一貫して取り組むことで充実させること
子どもたちの社会参画力を育成する上で,小中9年間という限られた時間を有効に活用するため1年生からいまとみらい科を設置し,9年間を通した単元開発をおこなう必要がある。「いまとみらい科」では,9年間で社会参画力を高める形とし,「家庭・学校」の単元,「地域・社会」の単元に整理して,社会参画力の重要な柱である「社会の中から課題をとらえ解決する力」を育成することをめざした。同じテーマを発展させながら解決する領域が広がっていくことを意識すること,9年間で何度もS-RPDCA学習サイクルをくり返すことで,子どもたちの社会参画力が高まると考えたからである。

D教職員が社会参画力を身につけることで,意識改革・授業改善をすすめること
「校区の教職員の意識改革」「校区で進める授業改善」はこの研究を進める上で欠かせないことであった。リアリティある「いまとみらい科」を開発するためには,まず,教職員が地域社会と連携する必要があった。教職員が学校の枠を越えて,実社会に出ることで,魅力ある地域の方や教材と出会える。そのことが,子どもにとっても,教職員にとっても,地域の方にとっても意欲のわく充実した学習につながると考える。地域の方との協働,3校の教職員との協働は,多様な価値観の中で話し合い,修正を重ねながらチームで研究を進めることにつながる。つまり教職員が社会参画力を身につけることにより,意識改革・授業改善を進めることをめざした。

 
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